デズモンド・カーター
幼い頃から正直であれと言われて育てられた。
嘘、欺瞞、虚偽それらは悪であると。
俺はその言葉を信じて生きてきた。
今でも俺は俺の正義に準じて生きている。
あの事件が起きた時も俺は間違ってなどいないと
今でも言い切れる。俺は正義なのだから。
世の中に正義である真実を伝えていくために
ジャーナリストになった。
不倫、汚職、詐欺、偽装工作。
世界には嘘が溢れかえっている。
誰かが正し続けねば。
俺は真実を明らかにするためなら
どんな方法も厭わなかった。
それが世間で言う悪に分類されるようなことであっても。
そうして出来た最後の記事はある世界的歌姫の不倫。
彼女は辺境の街の人形師の男に入れあげていた。
表にはお気に入りの人形を作ってくれる人形師がいると言っていたが、実際は違う。
歌姫は人形師としてではなく男自身に惚れ、男もまた金も力も若さもある歌姫に貢いでいた。
男は妻と共に子を捨て、愛してくれた妻をも騙し、歌姫を選んだ。
それは悪だ。
歌姫が男に妻子がいたということを知らなかったとしても、だ。
悪は断罪されねばならない。
だから俺は記事にした!公表した!!
俺が知りうる全ての情報を包み隠さず!!
そして金も力も名誉も失った歌姫は男に捨てられ。
命をも海に捨てた。
歌姫に向けられていた悪意は何故か俺に向いた。
俺は仕事を失くし、行き場を失くした。
何故だ?俺は正義だというのに。
悪が罰せられたことによって俺が悪になるなんておかしいじゃないか!!
放浪の末に気がつくと
目の前には大きな洋館があった。
手には封蝋が押された封筒。
中には
「因縁の相手と会えるやも知れない」と。
俺は荘園の扉を叩いた。
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