森の中にて(狗叉)
「あ~ぁ……これからどうするかなぁ……」
俺は森の中を歩きながら悩んでいた。
「持ってた金は無くなったし。住むとこもねぇし……」
懐から出した財布を下に向けて開く。
もちろん金なんて残ってないから出てくるわけねぇし。
俺は大きく溜め息をついた。
「ひっ……」
岩の後ろから高い声が聞こえた。
それもか細く弱々しい声。
岩の後ろに回り込むと、そこにいたのはボロボロの服を着た小さな少女。
小さくうずくまり、草陰に隠れていた。
金色の長い髪をボサボサにし、大きな赤い目で俺を見上げている。
……可愛い。
それが俺から見た少女の第一印象だった。
「こんなところで何してんだ? お前親は?」
俺は少女に手を伸ばした。
少女は俺の手を弾き、さっと後ろに下がって距離をとる。
「なぁ…」
「近付くな!」
少女が震えた声で叫んだ。
俺は足を止める。
少女は明らかに俺に敵対意識を持っているようだ。
「来るな!」
少女は更に叫ぶ。
「さっさとどこかへ行け!さもないと黒こげに焼いてやる!」
少女は俺を睨むなり、周囲に炎の球を作り出した。
「ほ、本気なんだからな!」
小さな子が震える体で一生懸命強がっている。
どうしてこんなにも俺に敵対意識を持つ?
顔が怖いからか?
こんな森の中だからか?
どちらにしろこんな子供が森の中にいることのほうがおかしい。
俺は少女の目線に合わせるため、屈んでみた。
少女はビクッと体を震わせ、更に距離をとった。
「さっさと立ち去れ! もうここには何もないんだからな!」
「何もないって……どういうことだ?お嬢ちゃん」
「とぼけるな! お前もアイツらの仲間なんだろ!」
「アイツらって誰のことだ?」
「アイツらはアイツらだ! 全て奪ったくせに! 他に何を奪う気だ!」
少女は炎の球を放った。
俺はサッと避ける。
少女は俺を涙目になりながら睨みつけていた。
「もうここには何もないんだ! だからさっさと立ち去れ!」
「よく話がわかんないんだけどなぁ」
「とぼけ「とぼけてないさ」
少女が炎の球をまた放つ。
俺はそれを片手で受け止めた。
「アチチチッ!!」
少女がポカンとした顔で俺を見る。
そういや俺のタイプは草だった。
まぁ死にはしないだろう。
俺は手を撫でながら少女に視線を移した。
「俺はさっきこの森に入ったばっかの浮浪者。金なんてないし、むしろ腹減って死にそうなぐらい弱ってんだよ。わかるか?」
少女は怯えながらも首をふる。
「お嬢ちゃんがどんな目にあったのかは俺は知らないし、合わせた奴も知らない。俺はなにも関わってないからな」
「嘘だ!」
「なんでだよ」
「アイツらもお前みたいな顔をしていた! 悪い奴の顔だ!」
俺ってそんなに人相悪いのか?
そうでもないと思ってたのに。
なんかショック。
「確かに俺は人相悪いけど……本当に知らないんだ。だから何があったか教えてくれないか?」
少女は赤い目で俺をジッと見た。
真っ直ぐで汚れのない赤い瞳。
目を逸らしたくなったが逸らしたらきっと信じてもらえないだろう。
俺はずっと少女の目を見つめた。
少女が目をつぶり、また開いた。
その目はさっきの強がっていた目じゃなく、か弱い女の子の目だった。
「私達一族はここで暮らしてたの。だけど昨日……悪い奴らがいっぱい来て……村を潰していった」
少女の目に涙が溜まり始め、零れ落ちた。
少女の話によると、沢山の悪党が村を襲ったらしい。
そして少女の仲間をみんな殺したりさらったりしたんだとか。
少女は親にここに連れてこられて、ずっと隠れて奴らをやり過ごしたらしい。
少女は親がここを通り過ぎるとき「生きて……を大切に守って……」というふうに言われた。
だからここを守ってるんだそうだ。
「ここは私達一族の地……だから私が守らなきゃ……」
少女は涙を拭った。
それから俺を睨みつける。
「アナタは悪者じゃない。けどこの先には行かせない。私達一族の地は侵させない」
少女は立ち上がり俺の前に立ちふさがった。
「だから帰って! 立ち去って!」
「お前はどうするんだよ?」
俺は少女に聞いた。
「ずっと一人でここにいるのか? このままずっと一人で? そんなの死に向かってるだけじゃねぇか」
「違う! 私は生きてこの地を守るの!死んではいけないの!」
「親はそんなことを望んだのか?」
「望んだの! だから最後に大切に守ってって言ったんだ!」
少女は必死に叫んだ。
「本当にそんなことを言ったのか!」
「……っ」
少女は下を向いた。
記憶を辿っているんだろう。
辺りが静まり返る。
「お前の親はここを守れと言ったのか?」
「アナタの命を大切に守ってって言った。私の命はみんなと過ごしたあの地だから……だから私は……」
「その命ってのはお前さんの命だろ?」
「私の命はあの場所だ!」
「よく考えろ!」
俺は少女の肩を掴んだ。
「親が土地を守れなんて言うと思うか? 土地なんてどこにでもあるんだ。それが娘の命より大切だと思うのか?」
少女はしばらく黙り込み、ゆっくりと首を横に振った。
「じゃあお前がいるべき場所はここじゃない。生きるためにこの森を出るんだ」
「でも……」
「親の願いを聞かねぇのか?」
「……」
「よし! じゃあ森を出るぞ!」
「………っ……きゃぁ!」
俺は少女を肩に乗せた。
少女は驚き、俺の頭に必死に掴まる。
「放してよ!」
「こうしたら楽だろ。そんな傷だらけの足じゃ思ったように歩けないしな」
「……」
「…お前名前は?」
「え?」
「お前のなーまーえ」
「……九重」
「ココノエか。いい名前だな。俺は狗叉ってんだ」
「く……しゃ……」
「よろしくなココノエ」
「……うん」
肩に乗せていたから分からないが、きっとココノエは笑っていただろう。
そんな感じがした。
さて……金のこと考えなきゃな。
まずは街へ行きますか。
俺はココノエを肩に乗せたまま、元来た道を引き返した。
▼森の中にて
≪大きな男は少女のためにと、ここで生きる新たな目的を得た≫
0コメント