魔女と神と(創)

「うわぁ! つ、強すぎる!」
「退避、退避ー!」
「畜生っ! こんな奴、反則だろ……っ」
「全体至急撤た……ぐわぁあ!」
何故みんな戦うんだ。
観察者として幾度も幾度も見てきた光景。
何故同じことを繰り返すのか。
疑問に思ってこの戦争に介入してみたはいいが、結果は何もわからないまま。
「創様……」
「花紅か」
「創様のお手を煩わせてしまい、申し訳ございません……。私達が弱かったばっかりに……」
至る所から出血しながら、頭を下げる花紅。
彼女の赤い髪は、自分か相手かわからないほどの血液が赤黒くこびりついていた。
「私の指示のミスだよ。気にするな」
「しかし……」
「いいから。花紅は雪嵐と鳴神月と共に怪我を治療してきなさい。
敵はいつまた来るかわからないからね」
「—はい。では失礼します……」
花紅の姿を見送ったあと、私は目の前の光景を記憶に焼き付ける。
沢山の死体、立ち上る煙、様々な臭いが混ざり、不快感を煽る。
「なんて嫌な場所なんだ……」
私が一人で立ち尽くしている時、どこからか攻撃が飛んできた。
それを察知したがすでに遅く、脇腹をかなりえぐられ、また血液が飛び散った。
「くそ……殺れ……なか……」
敵は最後の攻撃だったらしく、悔しそうに涙を流し、息を引き取った。
それでも十分な威力があったそれを受けた私の体は、痛みに苛んだ。
これだから受肉した身は不便なんだ。
流れていく血は止まらず、私はその場に崩れた。
薄れいく意識の中、見たのは私に近付く人影だった。

***************
「ここは……」
「私の屋敷よ。死にそうだったから連れて来たの」
目が覚めた時にいたのは魔女のような風貌の女。
私が横たわっていたベッドの隣で椅子に腰掛け、テーブルの上にある水晶を丁寧磨いていた。
「あそこから近いのよ、ここ。ほら、森が見えたでしょ? 貴方達のおかげでだいぶ焼かれちゃったけど。そこにここがあるのよ。
で、何かないかなーと思って見に行ったら、倒れてた貴方がいたの。だから助けちゃった」
「……助けなくても良かったのだが」
「でしょうね。でも私が助けちゃったのは他の人と違って悔しい目じゃなくて、貴方が悲しい目をしてたから。
……何に悩んでいるのか知らないけど、もっと気楽に生きてみたら?
貴方が悲しむだけの世界じゃないわよ? この世界って。なんて、お偉いさんに言うことじゃないわね」
女はクスクスと自嘲気味に笑うと、また水晶を磨き出した。
「……名は」
「あら、聞く前に名乗るのが礼儀じゃなくて?」
「……創」
「私は魔架よ。しがない占い師をやってるわ」
「占い……当たるのか……?」
「まぁ、外れることは少ないわね。でも占いは占い。信じ過ぎてはいけないわ」
コトリと水晶がテーブルの上に置かれた。
「貴方はまだまだ生きなくてはいけない。だから今から世界を憂いてしまっては、貴方の心が死んでしまう。
だからそうね、この貴方の仕事が終わったら、貴方自身の新しい人生でも作り出してみたら?
きっと世界が変わって見える」
魔架はそう言って微笑み、立ち上がる。
「さて、と。もう傷が癒えてるはずだから、さっさとお家に帰りなさい。家族が心配してるんじゃなくて?」
「……そう……だな」
私はベッドから出て、枕元に置いてあった自分の服に袖を通す。
血も攻撃を受けた跡もなにもついて無く、新品かのように綺麗にされている。
「……今度ここに来てもいいか」
私は着替えながら問いかける。
「どうぞ? お茶くらいは出してあげるわ。
ただ、もう少し可愛いげがあると尚良いわね。今は堅苦しくて仕方ないもの。疲れちゃう」
「……考えておく」
「童心に帰るくらいが丁度いいんじゃないかしら?」
「……それも考えておく」
魔架は微笑み、屋敷の外へと私を連れていった。
「真っ直ぐ進めばすぐ森から出るわ」
「……治療感謝する。またいつか……土産でも持って訪ねさせてもらう」
「いい土産を期待してるわ。創様」
最初から私が誰か知っているくせに名を聞くとは……。
食えない者に助けられたものだ。
私は彼女に背を向け、森を進んだ。
その後戦いは終わりを告げ、短いかもしれない平穏が訪れた。

***************
「懐かしいわねー、その時の堅物が今じゃ放浪癖のついたお子様だもの」
魔架が煎れたばかりの紅茶を一口含んだ。
「童心に帰るくらいが丁度いいんじゃなかったの?」
「これはお子様過ぎじゃないのかしら? 極端過ぎるのよ、貴方は」
「じゃあ前の姿に戻ろうか?」
「それも遠慮するわ。せっかくのお土産の紅茶がまずくなっちゃう」
「失礼だなー、これでもお偉いさんなんだけどー」
僕も同じように紅茶を含み、飲む。
うん、今日買った紅茶はなかなか美味しい。
「対等に話してくれる者が一人はいるほうがいいでしょ? 創様?」
「確かに気は楽だけど。少しくらいは敬ってよ」
「敬ってるじゃない、創様?」
「呼び方だけだろー。魔架はさー。ま、魔架だからいいけどー」
僕はふて腐れた顔をしてみせる。
それを見て魔架はクスクスと笑い、テーブルの中心に置いてある水晶を指で撫でた。
「さて、創様。そろそろ本題に入るわね。本日は何を占えばいいかしら?」


▼魔女と神と
≪自称占い師の魔女は妖艶な笑みを浮かべ、今日も神の想いを占う≫

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