冬の温もり(霙)
「……寒い」
「そうね」
手袋をした手に白い息を吹きかけながら梨衣芙は呟く。
梨衣芙の鼻は真っ赤になり、まるで某童謡のトナカイのよう。
「私のマフラー使う?」
「うん、使う」
「即答なの。遠慮ないわね」
「霙は寒くないんでしょ」
「えぇ、寒くないわ」
寧ろこういう寒い日は好きよ、と言うのを私は止めた。
梨衣芙は冬のように凍てつく寒さがとても苦手なことを知っている。
こんな時に梨衣芙にお使いを頼む炉夏姉さんは酷いわね。
自分は寒さに強いのだから、自分で行けばいいのに。
私は自嘲気味の笑みを浮かべ、マフラーを梨衣芙に巻いてあげた。
「霙、手、繋ご」
梨衣芙が私の前に立ち、右手を出す。
「私の手は冷たいって知ってるでしょ?」
「知ってるよ」
「じゃあ止めときなさい。貴女の手がさらに冷えるわ」
「いいの」
「寒いんでしょ?」
こくりと彼女は頷く。
「それでも繋ぎたいの」
「どうして?」
「霙が好きな冬なら、霙の体温を感じられるもん。夏ではひんやりする霙の手も、冬なら暖かいもん」
梨衣芙は真剣な顔で言う。
「だから、繋ご」
「……変な子」
私は差し出された手をそっと握る。
手袋をした梨衣芙の右手と、指先が少し赤くなった私の左手。
梨衣芙は嬉しそうに顔を綻ばせた。
そんなに喜ばれると、なんか照れ臭くなるじゃない。
「霙も寒いの? ほっぺ赤いよ?」
梨衣芙が私の頬を触る。
毛糸を通して梨衣芙の体温を微かに感じた。
「……あったかい」
「ん?」
「いえ、寒くないわ、大丈夫よ」
私はふいと顔を逸らす。
顔を赤くしてしまうなんて、油断したわ。
「へへっ」
「何?」
「霙あったかい。手を繋ぐのなんて久しぶり」
「そう。ほら、早く帰るわよ。炉夏姉さんに叱られちゃうわ」
「はぁい」
私は梨衣芙の手を引き、家路を急ぐ。
ちらちらと降り始めた雪が地面に落ちては白い絨毯を作り出す。
その絨毯に足跡を残しながら、私と梨衣芙はお互いの手の温もりを感じていた。
冬の温もり
≪本当に暖かいのはきっと貴女の心なのね≫
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