友人>恋人(ブルートレス)
「サイテー!」
ぱぁん!
渇いた音と女性の罵声が響く。
女性は涙目になりながら、足早にその場を立ち去った。
ハイヒールの音が遠退いていく。
「また叩かれてる」
「いたのですか、九十九」
「通り掛かっただけ」
「そうですか」
叩かれた頬をさする。
結構強く叩いていきましたね、あの女性は。
「今週何人目?」
「9人……でしたかね」
「ブロトの女ったらし」
「向こうから来るんです。私は話しかけただけですよ」
そう、話しかけただけ。
付き合って欲しいと言うのはいつも女性のほう。
好きだと言うのも女性のほう。
なのに叩かれるのはいつもこっち。
私は何もしていないのに。
「顔、腫れてないですか?」
「大丈夫。手形がついてるだけ」
「それはそれで嫌ですね」
「なら付き合わなきゃいいのに」
ごもっとも。
けれど断る理由もない。
「断らないから勘違いされる。だから叩かれる」
叩かれるのは別に構わない。
「好きでもないのに好きとか愛してるは言えません。キスだって、それ以上だってできません。間違ってますか?」
「間違ってないけど間違ってる。相手はアンタも好きだと思ってるんだから」
「付き合うからって好きとは限らないでしょう」
「……アンタは罪な男だね」
「そうでしょうか?」
「うん」
九十九は軽く溜息をつく。
「九十九、これから暇ですか?」
「うん、まぁ」
「じゃあ一杯飲みに行きませんか?」
「別にいいけど」
「じゃあ行きましょう。いいお店見つけたんですよ」
「ふーん」
九十九、貴方は知っているでしょう。
私は人が苦手。
克服するために人と親しくすることを。
知っているからあまり私を責めない。
そんな優しい貴方が友人で良かった。
「こっちです」
「はいはい」
「今日は奢りますよ」
「助かる。今金欠だから」
「それは良かった」
「いつも奢らないのに、今日はどうした?」
「お礼です」
「ごめん、聞こえなかった」
「気分ですよ、気分」
「ふーん」
こんな私の友人でいてくれる、貴方へのささやかなお礼です。
こんなのでは感謝しきれませんが。
貴方にだけはフラれたくないものですね。
友人>恋人
≪貴方は私の唯一無二の友人です≫
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